浜島先生。
ツバサの脳裏に浮かぶのは、痩せてヒョロ長い陰気臭そうな姿と、眼鏡の奥に据えられた蛇のような瞳。確か、美鶴の事をあまり良くは思っていないらしく、毎日駅舎を監視に来ていると聞いた。
「ただの噂。確証はない」
考え込むツバサの肩をポンッと叩き、コウが努めて明るく口を開く。
「まぁ お前がそう考えるような事じゃねぇよ。バスケなんてどこででもできるし、お前が気にするような事じゃねぇ」
だがツバサは笑えない。少し焦点の定まらぬ瞳のまま、ほぼ無意識に呟いていた。
「なんで?」
「え?」
蚊の鳴くようなツバサの言葉に、コウは思わず聞き返す。
「何か言ったか?」
「なんで?」
「なんで? だから今も言ったじゃん。一応理由としては、部員数が少な――」
「なんで言ってくれなかったのっ!」
激しく遮り、頭上から怒鳴る。
「もう今、九月も終わりじゃんっ 一ヶ月もなんで黙ってたのよ?」
「それはっ」
「何? また私に心配かけたくないとかって、余計な気でもまわしてたワケ?」
「余計なって」
思わずコウもカチンとくる。
「余計なって、何だよ? その言い方」
「だってそうでしょう? 廃部になるかもってわかってて、どうして私には言ってくれなかったの?」
「どうしてって、それは」
コウがバスケ大好き人間だって事は、ツバサも知っている。好きでなきゃ、あんな我侭な部員ばかりの中で続けられるワケがない。
そんなコウにとって、廃部の知らせはどれほど辛い事だったか。
九月の初めに知らされてから、きっと不安だったに違いない。だがこの一ヶ月、コウは一言もツバサに知らせなかった。相談どころかその事実さえ知らせはしなかった。今日のように並んで帰った日もあった。自分の横を歩きながらコウは悩んでいたのかもしれないと思うと、ツバサは怒りを感じた。
腹が立つのは、誰に対して?
「それは何? 私はバスケ部員じゃないから関係ないの?」
「そんな事は」
「じゃあ何よっ!」
「言えなかったんだよぉっ!」
もう我慢できず、コウはありったけの声で怒鳴り散らす。ツバサに向かって大声をあげ、そのまま乗り出した身を傾け、両手を膝に乗せて地面を睨む。疲労のようなものが一気に押し寄せ、肩で荒く息をする。
「言いたくっても、お前、聞いてなかったじゃねぇか」
膝に手を乗せたまま見上げる両目が、鋭くツバサを責めてくる。
「いっつも上の空で、こっちが何言っても聞いてなくって」
「それは」
確かにツバサは、最近コウの話を聞いていない事が多かった。シロちゃんの事や、最近では美鶴の事ばかり考えて、つい考え込んでしまう事が多かった。
「さっきだって、金本たちの事ばっか考えてやがって、俺の話なんて、途中から聞いてなかっただろっ?」
「そっ それは」
それは確かだ。それはそうだけど、だけど―――
「俺の話よか、金本たちの方が大事なんだろ?」
「そんな事ない」
「じゃあなんだよっ?」
膝から手を離し、背筋を伸ばしてもコウの方が低い。でもツバサには、まるで上から見下ろされて、睨みつけられているようで物怖じする。
|